アダム・クーパーと中村勘九郎

kumocco2005-01-30

伝統を守りながら、進化を追求するというのは至難の業なのだ。

現在東京五反田でイギリスのバレエダンサー、アダム・クーパーが「危険な関係」を公演している。会場には多くの女性が駆けつけていた。アダム・クーパーファンがたくさんいるようだが、席は3分の2くらい埋まる程度。(ヨン様人気に押されたのかしら?ヨン様もこの「危険な関係」の韓国映画に出演していた。)

アダム・クーパーは、英国ロイヤルバレエ団で熊川哲也氏と同期でプリンシパルを務めている。熊川氏と大きく違うのは、伝統バレエに対する考え方かもしれない。伝統的なバレエを重んじる熊川氏に対し、アダム・クーパーは自身の舞台を「バレエ」とよぶのを拒んでいる。伝統的な、型通りの、知っている人にしか分からない「バレエ」ではない、新しい表現方法を模索している。確かに「バレエ」を期待していくとなんだか肩すかし。バレエでは、長い手足の美しい動きを見たいと思うのに、ドレスに覆われていてよくわからない。トウシューズでくるくる回って、糸操り人形のようなピンピンと背筋の伸びた踊りを期待しているのに、この舞台では、くる!ピン!くらい。では新しい、バレエとよばないダンスは何かというと、「theatrical dance」日本語にすると演劇ダンス。ダンスでストーリーを表現していくのです。「危険な関係」の複雑な話をダンスだけで表現するのは大変難しく、実際私には、感情は伝わってくるが、はっきりとしたストーリーはみえてこなかった。アダム・クーパーにとって、基本はどう考えてもバレエであるはず。そのバレエの美しい部分を、伝統を打ち破るために排除してしまっているような気がした。

危険な関係」を観ていて、中村勘九郎さんの平成中村座を思い出した。歌舞伎もバレエと同じように伝統があり、様々なお約束や形が決まっていて、ある一定の、分かっている人以外を排除してしまっている気がする。勘九郎さんは、そんな伝統の歌舞伎の裾野を広げ、もっと若い人にも親しんでもらおうと努力なさっていて、舞台は大きな成功を収めている。去年の夏にはニューヨークでも公演を行い海外でも絶賛を受けた。ところが、どんなに新しいことに挑戦していても、勘九郎さんは歌舞伎役者のままでいる。

アダム・クーパーにもバレエダンサーのままでいてほしい。ただ、挑戦しないで成功納めている人とは全く別の次元にいて、私は賛辞を惜しまない。